自己破産の種類|メリット・デメリットも併せて解説
債務超過でどうしようもなくなったとき、最終手段として「自己破産」を検討することになります。ただ、同じ自己破産でも手続の詳細は事案により異なります。手続の進み方などで分類することができ、それぞれ債務者にとってのメリットやデメリットも異なります。
自己破産をするという判断はとても大きな決断ですし、事前に自己破産について理解を深めておくことが大事です。当記事では自己破産の種類に着目して解説をしていきます。
自己破産の分類方法
一般に「自己破産」と呼ばれることが多いですが、厳密には破産法に基づく「破産」のことです。そしてこの破産は、裁判所に申し立てを行う必要があり、裁判所による「破産手続開始決定」を受けることで手続が進められるようになります。
自己破産については下表のように分類することができるのですが、破産手続開始決定に至るまでの大まかな流れは共通しています。そしてその後の破産の進め方、終わり方などで差異が出てきます。
なお、各自己破産は債務者が自由に決められるものではありません。債務者の財産状況など見て裁判所が決めるのであり、自己破産を始めるタイミングで「どれを選ぶべきだろう」と悩む必要はありません。そこで債務者の傾向に対応して各種自己破産の利用件数においても大きな偏りが確認できます。
自己破産の種類 | 自然人の自己破産 | 法人の自己破産 | |
---|---|---|---|
終結 | 破産手続終結(最後配当) | 108 | 183 |
破産手続終結(簡易配当) | 4,347 | 1,012 | |
破産手続終結(同意配当) | 188 | 36 | |
廃止 | 同時廃止 | 40,405 | 2 |
異時廃止 | 17,954 | 3,387 |
分類方法、種類について以下で説明していきます。
配当の有無(終結か廃止か)
自己破産は、まず「配当の有無」で分類することができます。自己破産により債務がなくなるとはいえ、潤沢な資金が残っているのであればできるだけ残った債務を弁済すべきと考えられます。
そこで自己破産の一環で配当を行うことがあります。債務者の財産を売却するなどして現金化。その現金を債務者に分配していくという作業です。配当を終えることでようやく裁判所から「破産手続終結」の決定受けられ、手続が終わります。
※このときの自己破産の手続は「管財事件」とも呼ばれる。
一方で、債権者に配当をするだけの財産が残っていないケースもあります。配当を行わずに破産手続を終わらせる場合は「廃止」と呼ばれ、終結に至るまでより短期間で手続が終了することとなります。
配当の方法
配当を実施するときはさらに「配当の方法」で自己破産の分類をすることができます。配当方法別の特徴を以下にまとめます。
配当の方法 | 特徴 |
---|---|
最後配当 | 原則的な配当方法。債務の内容、債務額などの調査を行い、債務者の財産を換価して配当を実施する。 |
簡易配当 | 最後配当より簡易な手続による配当方法。配当可能金額が1,000万円未満であるなど、所定の要件を満たす場合にのみ可能。スピーディーに配当ができるようになる。 |
同意配当 | 債権者の同意がある場合に認められる、簡易配当よりさらに簡単な配当方法。 |
なお、実務上件数が多いのはこれらのうちの簡易配当です。
資産家や財産が比較的残っている企業などの場合は最後配当になる可能性が高くなりますし、債権者集が特に少ないような場合は同意配当にできる可能性が高くなるでしょう。
廃止の時期
廃止により自己破産が終了するケースでも、「廃止となる時期」により手続の種類を分けることができます。
次の3つを挙げることができますが、多くは同時廃止または異時廃止により自己破産は終了しています。
廃止の種類 | 特徴 |
---|---|
同時廃止 | 配当ができないことが初めから明らかであり、破産手続開始決定と同時に手続終了が決まるときの廃止。 |
異時廃止 | 破産手続を進める過程で債権者に配当ができないことが明らかになった場合の廃止。破産手続開始決定とはその時期が異なる。 |
同意廃止 | 債権者全員が、廃止で終わることついて同意をしたときなどに認められる廃止。 |
法人かどうか
自己破産は、個人(自然人)も法人もすることができます。
自分自身が主体となって金融機関などから借入を繰り返し、返済ができなくなったのであれば、自然人としての自己破産になります。一方、会社など法人を設立して事業を行っており、その事業が上手くいかず債務超過に陥ったときは法人としての自己破産をすることになります。
法人の場合は自己破産をすると法人格が消滅し、債務者がいなくなるため債務の弁済義務も消えてなくなります。しかし自然人の場合は存在が消えることはありませんので、当然に弁済義務がなくなるわけではありません。そこで「破産手続」に加え「免責手続」も行う必要があります。免責の許可も得られることによって、自然人の自己破産は完了するともいえるでしょう。
種類別のメリット・デメリット
債務者としては簡素な手続となった方がメリットは大きいです。
例えば配当を実施する「管財事件」と破産手続開始決定と同時に手続が終了する「同時廃止事件」とでは、期間の長さも手間も、費用も異なります。もちろん、管財事件の方が債務者の負担は大きくなります。
管財事件の場合は自らの財産を調査されますので、必要に応じて協力もしないといけません。処分されるまでしばらく期間がかかるかもしれず、その間待たないといけません。手続中は引っ越しや旅行などが一時制限され、期間が長いほどその影響を受けてしまいますし、換価処分などに対応する破産管財人への報酬の支払いなど金銭的負担も大きくなります。
このように廃止事件に比べると管財事件は多くのデメリットがあり、これと逆のことが廃止事件のメリットになるともいえるでしょう。
なお、管財事件となる場合でも比較的債務額が小さく債権者数が少ないなどの事情があるときは、「少額管財事件」として費用負担を抑えて手続を進められるケースもあります。この場合は上記デメリットの影響が小さくなります。
※少額管財の仕組みは法律に基づくものではなく裁判所独自の運用によるものであることから、エリアによっては利用できない可能性、利用条件が異なる可能性がある。
実際に手続期間がどれだけ違うのか、司法統計のデータをもとに、破産手続終結(管財事件)・異時廃止・同時廃止を比べてみましょう。
要した期間 | 破産手続終結 | 異時廃止 | 同時廃止 |
---|---|---|---|
1ヶ月以内 | ― | ― | 26,314 |
3ヶ月以内 | ― | 3,262 | 12,834 |
6ヶ月以内 | 795 | 11,638 | 1,119 |
1年以内 | 2,961 | 4,975 | 161 |
2年以内 | 1,799 | 1,363 | 16 |
3年以内 | 333 | 189 | 2 |
4年以内 | 64 | 51 | ― |
5年以内 | 23 | 15 | ― |
10年以内 | 14 | 7 | ― |
同時廃止だと破産手続開始決定と同時の終了ですのでやはり「1ヶ月以内」に終わるケースがもっとも多いです。異時廃止においても「6ヶ月以内」に終わるケースが多いことが分かります。
一方の管財事件では財産の換価、配当などが必要となりますし、少なくとも令和4年の調査においては3ヶ月以内に終了した例がありません。「1年以内」に終わるケースがもっとも多く、1年を超えるケースも次いで多いです。
なお、ここで示した手続期間はあくまで相場であり、管財事件だとしても6ヶ月以内に終わっているケースはありますし、逆に廃止事件でも長い期間がかかっているケースもあります。
また、弁護士に依頼することで手続が円滑に進められる可能性もあり、少額管財事件として短期・低コストで進められることもあります。結局のところ事案ごとに結果は変わってくるため、自己破産に強い弁護士に一度相談して見通しを立ててもらうことがおすすめといえます。
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資格者紹介
伊東 達也Tatsuya Ito
ご相談者様のお話を丁寧にお伺いし、最善の解決策をご提案いたします。
交通事故、相続、借金でお困りの時は、ひとりで悩まずにお気軽にご相談ください。
- 所属
-
- 刑事弁護センター 副委員長
- 司法問題対策等委員会 委員長
- 広報委員会 委員
- 静岡県留置施設視察委員
- 常葉大学非常勤講師(倒産法)
- 経歴
-
- 1982(昭和57)年 1月 静岡県静岡市 生まれ
- 2000(平成12)年 3月 静岡県立静岡高等学校卒業
- 2004(平成16)年 3月 千葉大学法経学部(現 法政経学部)卒業
- 2011(平成23)年 3月 静岡大学法科大学院卒業
- 2011(平成23)年 9月 司法試験合格(修習:新65期)
- 2013(平成25)年 4月 静岡法律事務所入所
Office Overview
事務所概要
名称 | 静岡法律事務所 |
---|---|
資格者氏名 | 伊東 達也(いとう たつや) |
所在地 | 〒420-0867 静岡県静岡市葵区馬場町43-1 |
連絡先 | TEL:050-3177-2484 伊東 達也 宛にご連絡ください |
対応時間 | 平日 9:00~17:30(事前予約で時間外も対応可能です) |
定休日 | 土・日・祝(事前予約で休日も対応可能です) |
アクセス | JR静岡駅よりバス利用で約10分、「八千代町」バス停より徒歩3分 新静岡駅よりバス利用で約6分、「八千代町」バス停より徒歩3分 駐車場あり |