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限定承認と単純承認の違い|効力や手続、注意点を相続方法別に紹介

相続人になった場合、資産も負債もまるごと引き継ぐ「単純承認」をするのが基本ですが、相続によるリスクを回避するために「限定承認」という選択肢も用意されています。

一切相続をしない「相続放棄」もあり、この 3つの選択肢があるということを知っておくと様々なシチュエーションに対応することができます。

 

ここでは特に単純承認と限定承認に着目して、これらにどのような違いがあるのかを解説します。

相続の方法には種類がある

亡くなった方の配偶者は常に相続人となります。さらに子どもがいるときはその方も第1順位の相続人として配偶者とともに相続をするケースが多いです。そのほか、子どもを代襲相続した孫、第2順位の親や祖父母、第3順位の兄弟姉妹が相続人になることもあります。

 

これは民法という法律に定められたルールですが、相続することが強制されるわけではありません。

相続人になった方は、次の3つのうちいずれかを選択することができるのです。

 

  • 単純承認
    プラスの価値を持つ積極財産、マイナスの価値を持つ消極財産もまるごと相続すること。
  • 相続放棄
    相続人ではなかったことにすること。亡くなった方の所有していたすべての財産について引き継ぐことはなくなる。
  • 限定承認
    すべての財産をまるごと相続するが、消極財産についての弁済義務を、相続で得た積極財産の範囲内に限定すること。

単純承認:弁済義務もまるまる引き継ぐ

まずは「単純承認」について説明していきます。

 

民法では次のように単純承認について規定しています。

 

(単純承認の効力)
第九百二十条 相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。

引用: e-Gov法令検索 民法第920条

 

「無限に権利義務を承継する」とあるように、財産の種別を問わず、そして亡くなった方が持っていた負債の弁済義務についても、一切の制限なくまるまる承継をすることになります。積極財産の方が割合大きければ単純承認のリスクは小さくなりますが、消極財産の方が割合大きければ単純承認することのリスクが大きくなります。

 

積極財産と消極財産の例

積極財産

(資産)

預貯金、株式、土地や建物、貸付金、自動車、美術品、貴金属、借地権 など

消極財産

(負債)

借入金、住宅ローン、カードの未払金、保証債務、敷金、税金の未払金 など

何も手続をしなければ単純承認したことになる

すべての権利義務を承継することはリスクでもありますが、亡くなった方の財産状況が明らかであったり、借金をしておらず積極財産の方が多いことが分かっていたりするのであれば、単純承認をした方が手続の手間もなく簡便です。

 

実際のところ、多くの相続においてこの単純承認が行われています。

 

というのも単純承認をするために特別な手続を行う必要がないからです。

 

民法では「法定単純承認」というものを規定しており、一定の事由があったときには自動的に単純承認をしたという扱いを受けることになっています。

 

そしてその事由の 1つには「 3ヶ月以内に限定承認や相続放棄をしなかったとき」が挙げられており、つまりは「相続開始後、何もしなければ単純承認をしたことになる」ということを意味しています。

 

この 3ヶ月は「熟慮期間」と呼ばれ、厳密には「相続が開始されたこと、自分が相続人であることを知ったときから 3ヶ月間」が相続するかどうかを考える期間として与えられます。

相続財産を勝手に処分すると単純承認したことになる

熟慮期間内であっても、相続財産を勝手に処分してしまうと単純承認をしたことになってしまいます。

 

“保存行為”であれば問題ありませんが、“処分”については法定単純承認の事由として列挙されているためです。

 

法定単純承認に該当する行為の例

法定単純承認に該当しない行為の例

・相続財産を贈与する

・相続財産を売り渡す

・家屋を取り壊す

・預金を払い戻す

・株式に基づく議決権を行使する

・賃料収入の振込口座を自己名義に変更する

・遺産分割を行う

・資産価値がない物品の形見分け

・葬儀費用を遺産から支払う

・亡くなった方に関する医療費を遺産から支払う

・死亡保険金を受け取る

・支払期限が到来している債務の弁済

・倒壊しそうな家屋を修繕する

・時効消滅を防ぐために債務者に請求する

 

相続財産を処分してしまい単純承認をしてしまうと、その後限定承認や相続放棄ができなくなってしまいますので注意しましょう。

限定承認:弁済義務を限定して引き継ぐ

次に「限定承認」について説明していきます。

 

民法では次のように限定承認について規定しています。

 

(限定承認)
第九百二十二条 相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。

引用: e-Gov法令検索 民法第922条

 

勘違いのないようにしたいのは、「相続する財産が限定されるわけではない」ということです。

「全財産について相続はするものの、弁済義務について限定される」ということです。

 

積極財産の方が消極財産より多いのなら単純承認と同様の状態になりますが、積極財産の方が消極財産より小さいのなら次のように弁済義務が限定されます。

 

例)積極財産 1,000万円、消極財産 1,500万円のとき

 

  • 単純承認の場合
    「+ 1,000万円」と「- 1,500万円」を相続人は取得し、差額 500万円分は自らの財産から弁済することになる。
  • 限定承認の場合
    「+ 1,000万円」と「- 1,500万円」を相続人は取得するが、弁済義務は 1,000万円に限定されるため、差額 500万円については弁済しなくて良い。

 

共同相続人全員による手続が必要

限定承認は、相続人にとってリスクを回避するために役立つ有益な手段ですが、いくつか難点があります。

その 1つが「相続人全員で手続をしないといけない」という点にあります。

 

(共同相続人の限定承認)
第九百二十三条 相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。

引用: e-Gov法令検索 民法第923条

 

相続人が 1人ならこの規定を意識する必要はありません。

しかし複数人の相続人がいるときは、 1人でも手続に協力してくれない場合、限定承認をすることはできません。

※相続放棄をした方については除外することができる。

3ヶ月以内に手続が必要

上述の通り、限定承認をするときは「相続が開始されて自らが相続人であることを知ってから 3ヶ月以内」に家庭裁判所へ限定承認の申述をする必要があります。

このとき申述書を作成し、その他相続人であることを証明する戸籍謄本等を準備して一緒に提出します。

 

なお、限定承認や相続放棄をすべきかどうかを判断するために相続財産を調査しており、 3ヶ月という熟慮期間内に間に合わないときは「期間の伸長」を求めて申し立てをすると良いです。

 

手数料(伸長を求める相続人 1人あたり 800円分の収入印紙と、郵便切手代。)を納め、家庭裁判所に申立書を提出します。

 

ただしこの申し立てについては必ず 3ヶ月以内に済ませるようにしましょう。

遅れてから伸長を求めるのではなく、間に合わないと思われるときは早めに対処します。

相続財産の清算に手間がかかる

「相続財産を清算する手続に手間がかかる」のも限定承認の難点の 1つです。

 

家庭裁判所に申述さえしていれば良いのではなく、相続財産に関する清算手続を始めないといけません。

 

そこでまずは「遺産目録の作成」が必要です。

どのような財産が相続対象になっているのか、一つひとつ明らかにし、一覧にまとめていきます。

 

そして「限定承認をしたことについての公告」もしないといけません。

 

その後も法律に従い「弁済や換価等の清算」を進めていきます。

 

こういった手続を怠って債権者に損害を与えてしまうと、限定承認者であっても損害賠償請求を受けるおそれがありますので、しっかりと限定承認者としての義務を果たさなくてはなりません。

清算手続に不安がある方は弁護士に相談し、必要なサポートを受けることをおすすめします。

単純承認と限定承認の比較

最後に、単純承認と限定承認をかんたんに比較してみます。

それぞれの特徴の違いから、適しているシーンについても次のような違いがあります。

 

 

単純承認

限定承認

効力

亡くなった方の権利義務をすべて引き継ぐ

相続財産に関する弁済義務が積極財産の範囲に限定される

方法

3ヶ月間何もしない

・遺産分割協議を進めたり相続財産を処分したりする

3ヶ月以内に限定承認の申述を行う

・申述は相続人の全員で行う

その後の手続

債務が残っている場合は債権者に弁済していく

遺産目録の作成や公告を行い、清算を進める

適しているシーン

・借金などがない、あるいは少ないことが明らかな場合

・限定承認の手続が面倒な場合

・積極財産と消極財産、どちらの方が大きいのかわからない場合

・消極財産の方が大きいが、どうしても取得したい財産がある

 

相続することによる経済的なリスクが不明な場合に、限定承認は効果を発揮します。

また、消極財産の方が大きいと明らかになっているときでも、特定の財産を相続したいときに限定承認を行うことがあります。

 

相続放棄だと何も取得することができず、思い入れのある財産、自宅や土地なども何も取得ができません。しかし限定承認であれば相続財産を取得することができ、別の財産を換価したり元々有していた預金を使ったりして弁済義務を果たすことができます。

 

どの方法で相続をするのか、あるいは相続をしないのか、ご自身の状況に合った選択をすると良いでしょう。

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伊東 達也先生

伊東 達也Tatsuya Ito

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所属
  • 刑事弁護センター 副委員長
  • 司法問題対策等委員会 委員長
  • 広報委員会 委員
  • 静岡県留置施設視察委員
  • 常葉大学非常勤講師(倒産法)
経歴
  • 1982(昭和57)年 1月 静岡県静岡市 生まれ
  • 2000(平成12)年 3月 静岡県立静岡高等学校卒業
  • 2004(平成16)年 3月 千葉大学法経学部(現 法政経学部)卒業
  • 2011(平成23)年 3月 静岡大学法科大学院卒業
  • 2011(平成23)年 9月 司法試験合格(修習:新65期)
  • 2013(平成25)年 4月 静岡法律事務所入所

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事務所概要

名称 静岡法律事務所
資格者氏名 伊東 達也(いとう たつや)
所在地 〒420-0867 静岡県静岡市葵区馬場町43-1
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